パーソナルジムの今後
- isokari3

- 22 時間前
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パーソナルジムの今後
40年前に総合フィットネスクラブのトレーナーとして働き始め、「パーソナルトレーニング」という言葉がまだ一般的ではなかった時代から、この業界の盛衰を見続けてきた身として、業態別に現状をまとめる記事をお届けします。当時は、ジムといえば大型の総合スポーツクラブが主流で、月会費以外に別料金で専属のトレーナーをつけて指導を受けるという発想自体が、まだ一般消費者には縁遠いものでした。それが今では、街を歩けば数ブロックおきに看板が見つかるほどの過熱市場になった。第一回は、その急成長と急失速を経験している、パーソナルジムを取り上げていきます。
私の住む横浜でも、駅から1km圏内で50件のパーソナルジムが存在するという。
集客にはホットペッパービューティーやリスティング広告など、規模に関係なく必要な広告費はかかってきます。ほとんどの店舗が初回無料体験で顧客獲得を行っていて、それだけで1年間、各店舗を巡り運動した気分を味わえるのではないかとさえ思う。冗談ではない。同じような密集状態の街は、全国にいくつもあるはずだ。
東京商工リサーチの調査によれば、2023年度のフィットネスクラブの倒産件数は1998年の統計開始以来最多を記録したそうです。そのすべてが資本金1億円未満の小規模事業者。さらに別の調査では、パーソナルジムの開業1年以内の廃業率は約8割という数字も出ている。起業全般で見れば1年以内に8割、5年で9割、10年で97%が消えるとも言われる世界だから、驚くことではないのかもしれない。
だが、この業界に限って言えば、原因はもっとはっきりしている。ライザップの成功モデルを見て、似たような業態に手を出した個店があまりに多すぎたのだ。ダイエットやボディメイクを売りにし、大会で結果を出したスタッフが指導する。聞こえはいい。しかし、ホームジム程度の設備で出店し、チェーン店や大型店と同じ土俵で広告費を投入しても、勝負になるはずがない。販促費は、個店もチェーン店も変わらない。むしろチェーンの方が、スケールメリットで安く広告を打てる。これでは個店に勝ち目はないのだ。
加えて、YouTuberの存在も大きい。今は無料で質の高い筋トレ動画やダイエット情報が溢れている。わざわざ高額なパーソナルトレーニングに通わなくても、運動のネタは苦労せず手に入る時代です。情報の希少性が失われれば、その情報に対価を払う層は減る。ジムの数が増えすぎたことと、情報がタダになったこと。この二つが同時に起きれば、淘汰が進むのは自明の理だ。
そんな中、ここ2年ほど業界を賑わせたのが、マシンピラティスのブームだ。集客が好調という噂を聞いて、ピラティスマシンを導入し、資格レベルも指導経験も怪しいトレーナーを採用して「パーソナルピラティススタジオ」を名乗るパーソナルジムが一気に増えた。だが、急成長したビジネスほどスタッフ育成は後回しになる。客は意外と正直だ。マシンピラティス専門店でさえも、今まさに淘汰のフェーズに入り、閉店が加速している。
そもそもピラティスは、ホットヨガのように「1レッスンでこれだけ汗をかいた」という分かりやすい満足感を提供しにくい。これがパーソナル指導となれば、指導の精度がそのまま満足度に直結する。ごまかしは通用しない。ブームに乗っただけの店と、ブーム以前から固定客を積み上げてきた老舗の本格スタジオでは、もはや勝負にならない。生き残っている専門スタジオに共通するのは、ブーム以前から地域に根を張り、紹介や口コミだけで新規客を獲得してきた点だ。広告費に依存しない経営は、それだけで他店との体力差を生む。技術と接客の質が、そのまま生存率に直結する時代になったということだ。
海外、特にアメリカを見ると、この先の答えはより明確になる。そもそもアメリカには、日本のような「パーソナルジム単体」というビジネスモデルがほとんど存在しない。パーソナルトレーナーとして働く場合、まず大型のフィットネスクラブに所属し、その中で契約形態で顧客に指導するのが標準的な形だ。設備投資と集客はクラブ側が担い、トレーナーは指導力だけで評価される。Equinoxのような高級クラブでは、内部昇格でトレーナーを育成し、基準に満たなければ契約を切る厳しい競争環境がある一方、結果を出せば高い報酬が待っている。設備・広告・人件費という三重苦を、個人が一人で背負う必要がないのだ。日本のパーソナルジム経営者が抱えるリスクの大半は、実は「箱を自分で持つ」という選択そのものに起因している。
では、今まさにパーソナルジムを経営し、あるいはそこで生計を立てているスタッフは、何をすべきか。答えはシンプルだ。一刻も早く、その泥舟から降りる準備を始めることである。
私であれば、24時間ジムを攻略する。24時間ジムは、入退会受付や見学案内、清掃といった業務に、すでに固定費としてスタッフを置いている。そこに割り込む余地は十分にある。日中から夕方の時間帯に常駐し、見学者への案内や初心者向けのフォームチェック、ミニレッスンを担当する。クラブ側にとっては、無人運営ゆえのサービスの薄さを埋められ、近隣の格安ジムとの差別化にもなる。トレーナー側にとっては、会員と顔を合わせる時間そのものが、パーソナル契約への動線になる。広告費をかけずに、信頼関係から売上をつくる仕組みだ。クラブにとっても自分にとっても、ウィンウィンになる提携を、待つのではなく自分から提案する。それが第一歩になる。
長期的には、理学療法士や柔道整復師といった国家資格保有者が、中高年向けに痛みの改善やパフォーマンス向上を目的とした指導を提供する、治療院とジムのミックス型に活路がある。設備は借り物でいい。問われるのは、資格という土台の上に積み上げた、技術と実績だけだ。
今のまま、狭い一室で広告費を溶かしながら、減っていく新規客を待ち続けるのか。それとも、自分の指導力を「箱」と組み合わせる側に回るのか。判断の時間は、もうそれほど残っていない。約40年この業界の浮き沈みを見続けてきた私から、現役世代に贈る最後のアドバイスである。引退する身としては、せめてこの先のパーソナルジム業界が、「広告費の消耗戦」から「技術と信頼の競争」へと舵を切ることを願ってやまない。





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