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総合フィットネスクラブの「逆襲」を決定づける次の一手

――場所貸しビジネスの限界を超え、米国式ファンクショナルレッスンで「教育」と「成果」を売る

1. 24時間ジムの「終わりの始まり」と、総合クラブの構造的弱点

いまだにFCを中心に24時間ジムや低価格帯のセルフジムの出店が続いています。しかし、この24時間ジムという業態は、すでに“終わりの始まり”に入っています。


出店スピードばかりが先行し、店舗数は完全に飽和しました。どのブランドの看板を掲げていても、中に入ればより広いスペースに所狭しと最新のマシンを並べ、ひたすらに価格を切り下げるだけの、いわば「金太郎飴ビジネス」に陥っています。「入会金無料、月会費2,980円、最新器具が24時間使い放題」――彼らの売りのポイントは、結局のところこれだけです。一見すると顧客の選択肢は増えたように見えますが、その本質は、純粋な筋トレを自力で行うための単なる「場所貸し」に過ぎません。


運動のやり方も分からないまま放置された初心者は、孤独なトレーニングに数ヶ月で飽き、幽霊会員を経て退会していきます。場所を貸すだけでは「教育」や「コミュニティ」が生まれないため、新たな顧客層を開拓する余地もありません。結果として、限られたフィットネス参加率のパイを奪い合い、リテンション(継続率)を維持できずに経営が立ち行かなくなる店舗が急増しています。24時間ジム業態は、すでに明確な「淘汰のフェーズ」に突入しているのです。


さらに、私の主戦場である地域密着型の総合フィットネスクラブには、24時間ジムにはない“構造的な弱点”が存在します。それが「エネルギーコスト」です。

中東情勢をはじめとする地政学リスクの高まりや円安の影響により、燃料費の高騰は今後さらに深刻化していくことが確実です。巨大な25メートル温水プールを維持し、広大なスタジオやジムエリアの空調を一日中維持するための莫大なランニングコストは、クラブの収支を直接的かつ致命的に圧迫します。


それにもかかわらず、多くの総合クラブはいまだに会員集客の「目玉」を見出せず、過去の成功体験にすがり「初月会費無料」「乗り換え割」といった安易なディスカウント戦略しか打てずに苦しんでいます。仮に月会費10,000円を8,000円に値下げした場合、以前と同じ売上を維持するだけでも25%以上の新規集客が必要になります。24時間ジムが爆増する中において、そんな力技が通用するはずがありません。


では、総合フィットネスは本当に「オワコン」なのでしょうか?

業界のイロハを総合クラブで学んできた身として、私は決してそうは思いません。圧倒的な設備と人材を抱える厳しい環境下だからこそ、24時間ジムには決して真似できない「人間(スタッフ)を介在させた価値の提供」によって、見事に復活を遂げるべきなのです。


2. 「スマホいじり」から顧客を救う、高単価SGTの成功事例

単なる場所貸しから脱却し、人間が介在する価値を生み出すとはどういうことか。ここで、本場アメリカのフィットネス市場における成功事例を見てみましょう。米国の大手24時間ジムチェーンでさえ、現在ではマシンを並べるだけのビジネスモデルに見切りをつけ、「Team Workouts(チームワークアウト)」と呼ばれる少人数制のファンクショナルレッスン、すなわち「スモールグループトレーニング(SGT)」を積極的に導入しています。


実際の参加者の声を聞くと、日本のクラブの会員がいかに放置され、機会損失を生んでいるかが浮き彫りになります。


「以前の私は、ただ有酸素マシンに乗って時間を潰すだけの『カーディオ・ジャンキー』だった」

「一人でジムに来ても、何をすればいいか分からず、結局マシンの上でスマホをいじって終わっていた」

「フリーウェイトエリアはマッチョな常連ばかりで怖くて、近寄ることすらできなかった」


このような悩みを抱えていた一般の会員たちが、SGTに参加することで劇的な変化を遂げています。彼らはコーチの導きによって、ケトルベルやダンベルを使った高強度のトレーニングに挑戦するようになります。「コーチが私の今日の体調やレベルに合わせて絶妙にメニューを調整してくれるから、一人では絶対にやらないような重さや動きに挑戦できる。仲間がいるからサボれないし、結果的に体型が劇的に変わってジムに行くのが最高のエンターテインメントになった」と口を揃えるのです。


ここで経営陣の皆様に強く認識していただきたい数字があります。

欧米において、このSGTは月会費とは別に「月額1万円〜2万円」の追加料金を伴う高付加価値サービス(Non-Dues Revenue:会費外収益)として成立しており、かつ非常に高い継続率を誇っているという事実です。

「会費内で何でも何度でも無料で出来る」ことで現場が疲弊する日本の悪習とは異なり、「確実に成果が出る教育と導き、そしてコミュニティ」に対しては、顧客は喜んで高額なお金を払うというビジネスモデルが完全に確立しているのです。


3. TRX失敗の本質は、コンテンツではなく「人材崩壊」

このSGTを日本の総合クラブで展開するための明確な解決策が「ファンクショナルトレーニング」です。前号の記事でもお伝えした通り、トレーニングとは本来、見栄えの良い筋肉を作るためだけのものではなく、ゴルフの飛距離を伸ばしたり、孫を抱き上げても腰が痛くならない体を作ったり、あるいは一生自分の足で登山を楽しんだりするための「ベース(基礎機能)」であるべきだからです。


しかし、ここで読者の皆様には苦い記憶が蘇るはずです。過去、日本の総合クラブにもファンクショナルトレーニングの波が押し寄せました。TRXやViPRといった、非常に魅力的で優れたツールが次々と導入された時期があったのです。しかし現在、それらのツールはスタジオの隅や倉庫で埃を被り、すっかり見かけなくなってしまいました。


なぜ、あれほど鳴り物入りで導入されたツールが失敗したのか。衰退した原因は、コンテンツの良し悪しではありません。失敗の本質は、“人材崩壊”です。


当時の総合クラブのスタッフは、フロントでの入退会処理から、ジム指導、スタジオプログラム、さらにはスイミングスクールの指導まで、過酷なマルチタスクを強いられていました。一つの運動理論(バイオメカニクス)を深く理解し、目の前の顧客の身体の癖を見抜いて適切な「指導(コーチング)」を提供する時間も、土壌も、完全に失われていたのです。

現場では「とりあえずこのツールを使って、1回30分の枠を回しておいて」という形骸化した運用が横行しました。本質も理解できてない状態のスタッフは、メーカーから渡された「うわべだけの指導マニュアル(振り付け)」を必死にこなすことで精一杯。もし参加者が「肩が痛い」と言っても、動作を修正する引き出しも持っていません。


これは指導ではなく、ただの「動作の発表会」です。機能改善というファンクショナル本来の価値が顧客に伝わるはずもなく、結果として参加者は離れ、ツールだけが残されました。この人材崩壊から目を背けたまま新しいものを導入しても、歴史は必ず繰り返されます。


4. 「商品縛り」の呪縛を解き、目的別の混成レッスンを構築せよ

過去の過ちを繰り返さないためには、正しいロードマップに沿った順序が必要です。


まずは、前号で紹介した「ハイロックス(HYROX:欧州発のファンクショナル競技型プログラム)」という、世界的に熱狂を生んでいる目新しいコンテンツを入り口にします。これを用いて、スタッフの意識を「単なる監視員・案内係」から「成果をコミットする指導者」へと強制的に引き上げます。スタッフ自身がトレーニングの楽しさと厳しさを体感する環境整備を行ったうえで、次のステップとして中高年にも有用なファンクショナルレッスンを本格導入していくのです。


ここで絶対に避けるべきなのが「商品縛り(ツール縛り)」の呪縛です。

特定のサスペンションツールやウェイト器具のメーカー研修に参加すると、当然ながら「この商品一つで、全身の筋力アップから高齢者のリハビリまで何でも完璧にできますよ!」という前提でプログラムが組まれます。

しかし、現場で指導にあたるトレーナーとして冷静に考えてみてください。人間の身体の動き(押す、引く、しゃがむ、捻るなど)の根底にある理論は同じであっても、ツールには明確な向き不向きがあります。「下半身の爆発的なヒンジ動作を引き出すなら、あのツールよりも絶対にケトルベルの方が安全で効果的だ」「回旋運動ならViPRだ」という明確な優劣が存在するのです。


特定のブランドやメーカーの「信者」になる必要はありません。ケトルベル、サンドバッグ、メディシンボール、バトルロープなど、様々なアイテムの特性を柔軟に活用し、「ゴルフ飛距離アップクラス」「シニア向け膝痛・腰痛予防クラス」といった「目的別の混成レッスン」として自クラブ独自の形に仕上げること。これこそが、他店や24時間ジムには絶対にコピーできない圧倒的な差別化を生み出します。


5. ターゲットは中高年。確かな成果は強力なマネタイズを生む

このファンクショナルレッスンにおいて、特にターゲットとすべきは「健康への投資を惜しまない中高年層・アクティブシニア層」です。


彼らは、ただ孤独にチェストプレスを押すだけの無機質な時間には、もはや格安24時間ジム程度の価値しか感じません。しかし、「朝ベッドから起き上がるのが楽になる」「趣味のテニスで怪我をしなくなった」という明確なライフ・クオリティの向上が実感できるのであれば、納得して適正な対価を支払う経済的な余裕を持っています。


例えば、ファンクショナルトレーニングの代表格である「ケトルベルトレーニング」。一見すると単なる鉄の塊ですが、特有の遠心力を利用した「スナッチ」などの全身連動プログラムは、心肺機能と筋力を同時に高める非常に優れたメソッドです。しかし、これを動画サイトを見ながら独学で習得することは極めて困難であり、自己流では腰や肩を痛めるリスクが伴います。

だからこそ、そこに「プロのトレーナーが導く必要性」が強烈に浮き彫りになるのです。「この動きは自分一人では絶対にできない。先生に見てもらわないとダメだ」と顧客が感じた瞬間、単なる場所貸しビジネスは、高収益な教育ビジネスへと昇華します。


まずは導入容易なハイロックスで現場の熱量を変え、次にそれを土台とした目的別ファンクショナルレッスンへと移行する。過去のTRX導入の失敗原因(スタッフ教育の欠如と商品縛り)を猛省し、今度こそクラブ集客の「強力な目玉」として花開かせていただきたい。このSGTモデルがクラブ内で形になれば、集団レッスンで物足りなくなった顧客を「1対1のパーソナルトレーニング」へと送客する強力な導線となり、さらにはプールエリアでの水中トレーニングなど、次なる一手へと確実につながっていきます。


6. 安易な流行への便乗が、クラブの首を絞める

最後に、現状の厳しさに焦り、目新しいものに飛びつきたくなる経営陣に向けて強く警告しておきます。


昨今、マシンピラティスをはじめとする「新しいブーム」が業界を席巻しており、空きスタジオを改装して導入を検討しているクラブも多いでしょう。しかし、導入のハンコを押す前に必ず自問してください。

「それは、現在のクラブの人的リソースにおいて過度な負担にならないか?」

「高額な専門マシンに見合うだけの、深く高度な知識を持ったインストラクターを自社で育成し、数年後も標準以上のクオリティを維持できる体制にあるのか?」


マシンピラティスは素晴らしいメソッドですが、数日間の簡易的な研修を受けただけのスタッフが現場に立てば、すぐに顧客に見透かされます。ブームに飛びつき、立派な箱(設備)だけを作って人材育成が追いつかず、結局運用できずに失敗した過去の歴史を繰り返してはなりません。


いま現在のスタッフ体制で「やれること」を冷静に見極め、同じレールの延長線上で無理なく、かつ指導クオリティを絶対に下げないようにコンテンツを育てていくこと。

安易な会費のディスカウントや、中身のない流行への便乗は、クラブの寿命を縮めるだけです。いま総合フィットネスクラブに求められているのは、血の通った「教育」と、人と人が繋がる「コミュニティ」の再構築です。


それ以外に、24時間ジムの猛威とエネルギー高騰の壁を乗り越え、総合クラブが生き残る道はありません。のんびりしていると、24ジムが取り組み始めますよ。


 
 
 

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