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総合フィットネスクラブの逆襲

旗艦店×低価格小型店でエリアを制す


1. はじめに

かつて総合フィットネスクラブは、健康・運動・交流のすべてを一か所で満たせる「ワンストップ型施設」として、多くの会員を惹きつけてきた。広いトレーニングジム、複数のスタジオ、そして25mプール。これらを備えた大型店舗は、運動習慣を求める人々にとって理想の場だった。

しかし、近年その立場は大きく揺らいでいる。無人運営による低価格化を武器とした24時間ジムが全国に急増し、駅前にもマシンピラティス専門スタジオが乱立。利用者は自分の目的に合わせて専門店を選び、総合クラブの「全部入り」という魅力は相対的に薄れつつある。加えて、光熱費や人件費の高騰が経営を直撃。特にプールは人気低下が激しく、先日行われたスポルテックでもプール関連の出展ブースは記憶に残っていない。本来であれば圧倒的な差別化となるはずのプールが足を引っ張っている悲しい現状。

このまま現状維持を続ければ、会員数の減少とコスト増が同時進行し、やがて縮小均衡に陥るリスクが高まる。そこで必要なのは、従来の総合型の強みを活かしつつ、競争環境に適応した新しいビジネスモデルだ。

2. 現状分析

総合フィットネスクラブを取り巻く市場環境は、この10年で劇的に変化した。

まず、競合の多様化と低価格化が挙げられる。エニタイムフィットネスやchocozapに代表される24時間ジムは、月額3,000〜8,000円程度で利用可能。人件費を抑えた効率的運営により、都市部だけでなく郊外にも急速に店舗網を広げている。一方で、マシンピラティス専門スタジオなどの専門型スタジオは「短時間・特化型」志向の女性を中心に支持を拡大。目的別の選択肢が豊富になった結果、総合クラブの「多機能」は以前ほどの強力な訴求力を持たなくなった。

総合型の強みは依然として存在する。広い施設、多様なプログラム、会員同士の交流やコミュニティ形成は、専門型や小型ジムでは再現しづらい価値。しかし、この強みは裏を返せば「維持コストの高さ」に直結する。特にプールは水質管理、加温、監視員配置など、運営コストが突出して高い。利用は減少傾向にあり、キッズスクールを行っていないクラブでは、大型ジムに改装などの計画も数多く聞こえてくる。

3. 生き残りの方向性

これからの総合フィットネスクラブに必要なのは、旗艦店と低価格小型店を組み合わせた二層モデルである。旗艦店は高付加価値とブランド力を維持し、小型店は低コストで市場の隙間を押さえる。この二層構造によって、エリア全体を「面」で支配する戦略が可能になる。

旗艦店は、最新設備・多機能施設・質の高い指導サービスを備え、地域における象徴的存在として位置づける。一方、小型店は競合となる24時間ジムの近隣や人通りの多いエリアに出店し、低価格で利便性を訴求する。両者を会員制度や利用オプションで連携させることで、幅広い層を囲い込み、競合優位を確立できる。

4. 戦略の具体像

1. 旗艦店のリニューアル強化旗艦店では、最新トレーニングマシンやフリーウェイト設備の導入、照明や音響の刷新、衛生環境の強化など、「行く価値がある」と感じさせる空間づくりを行う。特に入れ替えたトレーニングマシンは、メーカーが廃棄マシンとして引き取っていくが、その後は整備されて中古市場に回ることになる。これが一番勿体無い。リニューアルに合わせて小型店を企画すれば低コストでジムをオープンできる。

2. 廃棄マシンの再活用による小型店展開旗艦店で入れ替えた廃棄マシンは、状態を整えて小型店に再利用する。これにより初期投資を大幅に抑え、月額を抑えた24時間ジムを展開可能。場所は競合ジムの近隣や住宅密集地を狙い、無人運営でランニングコストを最小化する。出店を加速させる場合は中古マシンを積極的に活用しましょう。これだけ多くの24時間ジムが乱立するということは、それだけ閉店数も増え中古マシンが出回ることとなります。

3. 小型店から旗艦店への誘導小型店会員は追加料金を支払うことで旗艦店を利用できるようにする。プール、パーソナルトレーニング、スタジオプログラムなどなど、旗艦店ならではの魅力を「特別体験」として販売することでアップセルを促す。競合24時間ジムとの差別化になります。

4. ピラティス・ヨガ専門店の併設やテナント展開空きテナントや小規模スペースに、マシンピラティスなどの専門型店舗を出店。女性客層や姿勢改善ニーズに対応しながら、旗艦店との会員連動を図る。これにより、小型競合単独店舗では難しい「横展開での囲い込み」が可能になる。

5. 地域密着マーケティング小型店ではSNS広告とWeb集客で利便性・価格を訴求し、旗艦店では高品質な体験会や健康測定会などイベント型集客を実施。エリア内での接点を増やし、既存会員の退会抑止と新規獲得を同時に狙う。

5. 期待される効果

この二層戦略には、次のような効果が期待できる。

(1) 競合への直接的打撃競合の近隣に低価格店を出すことで、価格優位性を奪い、顧客流出を防ぐだけでなく、新規顧客を取り込める。

(2) 投資効率の最大化廃棄されるはずだったマシンを再利用することで、小型店の初期投資は大幅に削減。無人運営と低固定費で安定した収益源になる。

(3) ブランドの地域支配力強化旗艦店と小型店を組み合わせたエリア戦略により、新規競合の参入障壁を高め、地域での存在感を維持・拡大できる。

(4) 顧客生涯価値(LTV)の向上利用者がライフステージやライフスタイルの変化に応じて店舗を選べるため、長期的な会員維持につながる。

6. まとめ

総合フィットネスクラブは、かつての「大型施設一極集中モデル」だけでは生き残れない時代に突入している。競争環境は細分化と低価格化が進み、従来の強みであったプールや多機能施設も、コスト負担の重さから経営の足かせとなることがある。

その中で鍵となるのは、旗艦店でブランド価値を高めつつ、小型低価格店で市場を押さえる二層戦略だ。廃棄資産を再活用し、コストを抑えてエリア展開を行う。小型店で獲得した会員を旗艦店へ誘導し、アップセルを狙う。このサイクルを確立すれば、競合が模倣しにくい独自の経営モデルとなり、地域フィットネス市場での優位性を取り戻すことができる。

いま求められているのは「守り」ではなく「攻め」の姿勢だ。総合フィットネスクラブが本気でエリアを面で押さえにかかれば、再び地域の健康拠点として輝きを取り戻すことは十分可能である。


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写真はエスティフィットネスクラブのサテライト店

中古マシンを活用し低価格24時間ジムをサテライト店として戦略的に出店

 
 
 

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